矢部は生命力をテーマとした作品を制作する日本の美術作家である。彼女は幼い頃から絵を描くことが好きだった。身の回りのものを鉛筆で描写して観察眼を養い、生き物の図鑑を読んで想像力を育んでいた。彼女が初めて創作したドローイングは、さまざまな生き物が棲む海中空間だった。幼少期に培った生き物への興味や創造力は彼女の制作の原点である。生命力への渇望と自由への願望は今も彼女の制作の原動力になっている。
矢部は13歳の時に50号サイズの油彩画を制作し、材料の面白さや大きなキャンバスを描く楽しさに目覚めた。彼女は京都市立芸術大学・大学院で6年間油彩画を学んだ。伊藤若冲(1716-1800)や浮世絵から切れのある線や大胆な構図を学び、ポール・ゴーギャン(1848-1903)やアンリ・マティス(1869-1954)から華やかな色彩の影響を受けた。大学時代は人物画を描き、空間に興味を持ち始めた。大学院では動物へとモチーフを変え、様々な空間を画面の中に描くようになった。在学中に初めての個展を行い、展示活動を始めた。卒業後、彼女は幼少期に描いた海中空間を題材とした大作を描き、展示空間やインスタレーションに興味を持ち始めた。
矢部は鑑賞者とつながるアートを追究している。油彩画ではキャンバスを窓に見立て、生きものたちが棲む異空間を描く体感型アートに取り組んでいる。鑑賞者が追体験できるように、大作を描くことが多い。立体作品では、生命力の抽出や鑑賞者との対話型アートに取り組んでいる。空間全体で生命力を表現することにより、鑑賞者に体感型の展示空間を提供するとともに、彼女自身も生命力という安心感に包まれている。